Csunの日記

本好き📖*

逃避より、リアル。『日本演劇現在形』

芸術関連の本屋さんで、“今を生きるためにお利口でいる私”の枠を取り払って、“何かもっと根源的なものと向き合いたい”個人的需要と合致。表紙の醸し出すエネルギーもなかなかのものがありました。8人の演劇作家との対話集です。

「現在形」ー演劇を介して、演者と観客の間で取り交わされる「前言語的認識の刹那」、普段は潜在意識として潜む何かをすくいとる「今」があってこその演劇。その意味での「現在形」。


編著:岩城京子さん

演劇研究者、演劇パフォーマンス学研究者。もともとは、演劇に特化したジャーナリストとして活動していたのを、ロンドン大学ゴールドスミスで博士号を取得して研究者に転向したそうです。留学情報サイトなどによると、ロンドン大学ゴールドスミスは芸術系の学部が充実しており、「学生が選ぶイギリスで最も創造的な大学」に選ばれたこともあるそう。人類学分野はヨーロッパトップと言われることもあるそうです。

アントワープ大学文学部映画演劇学科専任講師。アントウェルペン王立芸術学院、ヤギェウォ大学、ニューヨーク大学アブダビ校、ゲッティンゲン大学ルーヴェンカトリック大学etc…他大学からも講義のオファーがあるなどご活躍です。ベルギー、ポーランドアメリカ、ドイツ…多忙ですね!

著書に『東京演劇現在形』(Hublet Publishing、2011年 )。『〈現代演劇〉のレッスン』『アピチャッポン・ウィーラセタクン ──光と記憶のアーティスト』(いずれもフィルムアート社、2016年)に執筆。

演劇作家との対話ー社会的な時間芸術の生成を求めて

本書はちょっとした専門書のような文字量で読み応えがあります。「楽しく気軽に読みましょう」というより、「ちゃんと一緒に考えましょう」というオーラに満ち満ちています。あとがきには

本書を契機に、様々な思考・批評の場が生まれるためには、あえて誤解を恐れず、言葉をうやむやにせず、クリアな文章を提示する必要があると思いました。

とあります。また、それ故に断定的な文体を選んだそうです。

本書は『東京演劇現在形 — 八人の新進作家たちとの対話 Tokyo Theatre Today — Conversations with Eight Emerging Theatre Artist』(Hublet Publishing 、2011年)というインタビュー集(こちらは日本語と英語の両言語で収録)の続編といえるものだそうです。続編と「位置付けることができる」という意味なので『日本演劇現在形』から読み始めても大丈夫だと思いますが、『東京演劇現在形 』は日本演劇に馴染みの薄い人々を対象とした(それ故に英語でも収録)ジャーナリスト時代のものであるのに対して、『日本演劇現在形』は日本の演劇やカルチャーへの知識をある程度持つ人たちへ向けて研究者の視点から書いている、という点でその違いが如実に表れたとのこと。私は『東京演劇現在形 』は未読ですが、比較しながら読むのも面白いかもしれません。

両書とも、それぞれ8人の演劇作家たちへのインタビュー集です。

*『日本演劇現在形』に登場する演劇作家(目次順)
神里雄大(岡崎藝術座)
村川拓也(演出家・映像作家)
木ノ下裕一(木ノ下歌舞伎)
藤田貴大(マームとジプシー)
西尾佳織 (鳥公園)
三浦直之(ロロ)
山本卓卓(範宙遊泳)
市原佐都子(Q)
※8人とも80年代生まれ

登場する8人は、「かなり自覚的に、『いま』という時代感覚に敏感なセンサーを持つ才能たち」として岩城京子さんが選んだ演劇人たち。この選定は「演劇とは、『平均的な日常が、正常ではない』ことを鋭く射抜くメディア」である(べき)にも関わらず、いつの間にか「(例外的な才能が手掛けるものは除き、)社会意識の可視化装置として機能しなくなってしまった。逆に、この国の演劇は、少なからず、演劇界に棲む隠遁者たちが悦にいる、自己充足的メディアとして弛緩してしまった。」という岩城京子さんの問題意識を反映しています。

8人8様、その人から引き出したいと著者が思う3つのキーワードを元に、焦点を絞った対話をしています。目次を見ると分かりますが、私は社会論集的にも読めるという点もいいなと思いました。

*『東京演劇現在形 』に登場する演劇作家さん
高山明 (Port B)
松井周(サンプル)
岡田利規 (チェルフィッチュ)
岩井秀人 (ハイバイ)
前川知大 (イキウメ)
三浦大輔 (ポツドール) タニノクロウ (庭劇団ペニノ)
前田司郎 (五反田団)

ちなみに、岩城京子さんは『東京演劇現在形 』執筆時点で13カ国の取材をしています。

ブックデザイン:長田年伸さん

2021年から多摩美術大学芸術学科非常勤講師。

表紙をパッと見た感じではタイトルがいまいち目立たないのですが、それも織込み済みなのでしょうか、デザインだけで書籍の持つ方向性と熱量が伝わり思わず手に取りました。

↓こちら長田年伸さんのワーク一覧。書籍の傾向から、関心のあり処が分かるような気がします。私は気になる本をちらほら見つけてしまいました(o^^o)
nagatatoshinobu.tumblr.com

書籍データ

題名:『日本演劇現在形 時代を映す作家が語る、演劇的想像力のいま』
編著: 岩城京子
版元: フィルムアート社
発行日:2018年2月1日
サイズ:四六判
頁:304頁
定価:2200円+税(単行本)