なんて独特なんだ…でもこの世界、きっとある。山尾悠子さん『歪み真珠』
芸術系の本や雑貨が並ぶ本屋さんで、表紙の雰囲気と帯に惹かれて手にした短編集です。並み居る美しい装丁を前に、只事ではない光を放っていたんです。
文も文で、独特の世界観とその語りに、惹かれるような、ちょっと距離を置きたいような…。少しずつ読み進めて数年経ち、ようやく著者さんについて調べるに至りました。知る人ぞ知る、現代における幻想文学の旗手でした。
作者:山尾悠子さん
筑摩書房の公式ページには
1955年、岡山県生まれ。75年に「仮面舞踏会」(『SFマガジン』早川書房)でデビュー。2018年『飛ぶ孔雀』で泉鏡花賞受賞・芸術選奨文部科学大臣・日本SF大賞を受賞。
とあります。SF雑誌でデビューして2018年には日本SF大賞を受賞しているわけですが、「SF作家」ではなく「幻想文学作家」と言われます。科学や技術の趣向を凝らした「sience fiction」ではなく、ある意味科学と対立するような世界を、さも「あります」というように流暢に表現してみせるのです。…現状の私の捉え方によると、ですが。
もっとも、SF文学は幻想文学に含まれるのだそうですが(hontoの解説による)。
嘉作であるうえに、1985年からしばらくの間は作品を発表していなかったことから、「幻の」作家と呼びならわされ、「伝説の」とも言われます。「幻の幻想作家」「伝説の幻想作家」…あらゆるものが露わになる現代において、貴重な在り方です。
高校生の時には文芸部に所属。SF小説好きの先輩が貸してくれたSF小説や、ミステリー、時代小説など何でも読んだそうです。好きだった小説家は倉橋由美子さん。この頃は「詩のようなもの」を書いていたそうで、小説を書き始めるのは大学生になってから。久々に手に取った「SFマガジン」に、数年に一度しかないコンテストの募集記事があり、「ああ、これは私が応募してもいいんじゃないかな」と思ったそうです。それで生まれて初めて書いた小説が『仮面舞踏会』。この、生まれて初めて書いた小説が最終選考まで残り、雑誌掲載されます(1975年「SFマガジン」早川書房)。すごいですね!
ちなみに、高校生の時に夢日記を書き始め、綴った内容をその後書き始めた小説に落とし込んだりしたそうです。
2018年には『飛ぶ孔雀』(文藝春秋)で第69回芸術選奨文部科学大臣賞、第39回日本SF大賞、が第46回泉鏡花文学賞の3賞を受賞。この作品は「2018年上期の文芸界の『事件』とも言われた」そうです。
装画:山下陽子さん
この美しい表紙があったからこそ、本書を手にしたんです…。
山下陽子さんのオフィシャルサイトには
兵庫県生まれ。山本六三氏に師事し、銅版画を学ぶ。近年は自身のコラージュ作品を写真製版した版画(コラージュ・フォトプレート・グラヴュール)の制作に取り組み、版画・コラージュ・オブジェの混合作品等、手法の境界を超えた独自の創作を展開する。
とあります。『歪み真珠』の表紙も銅版画でしょうか。文庫版の袖の部分に”collage「無辺の天井」”とあることから「コラージュ・フォトプレート・グラヴュール」という版画なのかとも思います。「コラージュ・フォトプレート・グラヴュール」。はて…?
「本とアートを楽しむ場所を作って」いるというBooks and Modernさんのホームページには
(*)コラージュ・フォトプレート・グラヴュール
銅板の上に感光材を載せ、コラージュ作品の写真を露光して孔版を作る。精密な技術と感覚が求められ、イメージ通りの仕上がりまで版を何度も版を作り直す。
との説明がありました。基本的な銅版画を小学校で辛うじて習ったことがあるというだけの身には、なかなかイメージするのが難しいですが^^;