その筆致…すごし✴︎宇佐見りんさん『推し、燃ゆ』
綿矢りささん、金原ひとみさんに続く史上3番目の若さで芥川賞を受賞した、宇佐見りんさんの『推し、燃ゆ』。発行から5ヶ月で17刷、今では52万部を突破。海外出版も次々と決まっています。怒涛の言葉というのでしょうか。その勢いに、一度も本を閉じることなく読み終えてしまいました。…恐るべし。
作者:宇佐見りんさん
大学在学中の21歳で第164回芥川賞を受賞(2020年下半期・発表2021年)。1999年のお生まれです。1999年…、同じく大学在学中に芥川賞を受賞した平野啓一郎さんが同賞を受賞した年ですね。
2019年『かか』で第56回文藝賞を受賞してデビュー。翌2020年に同じく『かか』で第33回三島由紀夫賞を史上最年少受賞。その年の下半期に『推し、燃ゆ』で芥川賞。順調ですね…!
芥川賞受賞後の第一弾として少女と家族の物語を描いた『くるまの娘』(河出書房新社)が出版されています。
小学校3年生の時、物語を書く授業がきっかけでその面白さを知り、高校生の時には「これしかない」と作家になる覚悟を決めたそうです。「いわゆる純文学といわれる作品に書かれていることが、それまでは難しかったり、遠いものというふうに思っていたのに」なんとなくわかるようになったことも一因だったそうです。
最初は形にならなかったものの、試行錯誤をしているうちに「気づいたらここにいた」とも。1作目の『かか』、2作目の『推し、燃ゆ』は物語の紡ぎ方が違うそうです。大事にしているのは「自分から出てくる言葉」。それ故に、できるだけ外の世界に出るようにしているとか。頭で考えるのではなく、実感を大事にしたいということですね。そうして出てきた描写のひとつに、『推し、燃ゆ』の冒頭の方の、とある文章を上げています。私も印象に残った表現のひとつです。
↓小説への向き合い方など興味深いインタビューです。
www.mensnonno.jp
装画:ダイスケリチャードさん
1994年滋賀県生まれ。デザイナー、イラストレーター。小・中学生の時にイラストレーターに憧れるも、生計を立てるのは難しそうだとの考えからデザインの専門学校に学び、デザイナーとして就職。土日はイラストレーターとして活動し、ここでの収入が本業を上回ったため独立。アーティストのMVイラストを手掛けたり、『推し、燃ゆ』をはじめとする小説の表紙を描くなど方々で活躍しています。
女の子のイラストが多く、いずれも一目で「ダイスケリチャードさんの作品だ!」と分かるのですが、『推し、燃ゆ』の表紙画然り、表情が伺えない角度のイラストであることが多いです。これは「面倒くさがり」な性格であることに起因するらしく、「顔を描くのが面倒くさいというか苦手」と思った結果、このスタイルのイラストが生まれたそう。髪を描くのは好きなのだそうです。
↓『推し、燃ゆ』の紹介動画。書籍の表紙とは別のイラストを見ることができます。
最近では、ダ・ヴィンチの「MUSIC&NOVEL PROJECT」プロジェクトに参加しています。
世界15ヶ国語に翻訳
河出書房新社によると、『推し、燃ゆ』は芥川賞受賞前より海外出版社からの注目を集めていたそうですが、今や15ヶ国語に翻訳されることが決まっているそうです。
↓既に出版されている国も。
✴︎イギリス
canongate.co.uk
✴︎デンマーク
korridor.bigcartel.com
海外出版リスト
(引用元:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000451.000012754.html)
『推し、燃ゆ』各国語版刊行状況、タイトルなど(刊行順)
・中国語簡体字/中国(上海浦睿文化传播有限公司)2021年7月1日刊行、タイトル『偶像失格』
・韓国語(Media Changbi, Inc.)2021年8月5日刊行、タイトル『최애, 타오르다』
・中国語繁体字/台湾(精誠資訊)2022年2月24日刊行、タイトル『本命,燃燒』
・デンマーク(Forlaget Korridor)2022年9月9日刊行、タイトル『Idol, brænder』
・英語/UKほか北米圏以外(Canongate)2022年11月3日刊行、タイトル『Idol, Burning』
・英語/北米圏(HarperVia)2022年11月15日刊行、タイトル『Idol, Burning』
以下は刊行準備中です(契約順)。
・イタリア語(Edizioni E/O)
・ロシア語(AST Publishers)
・インドネシア語(Gramedia)
・スペイン語(Editorial Oceano de Mexico, S.A. de C.V.)
・ドイツ語(Verlag Kiepenheuer & Witsch/2023年6月刊行予定)
・タイ語(Mind and Thought/2023年1月刊行予定)
・フランス語(PICQUIER)
・ベトナム語(Nha Nam Publishing and Communications JSC)
・ポーランド語(Grupa Wydawnicza Relacja sp. z o.o.)
ちなみに、今村夏子さんの芥川賞受賞作『むらさきのスカートの女』(2019年上半期)は、17ヶ国語、23か国・地域で翻訳されています。
「推し」ー言葉として
「人に薦めたいほどの思い入れがある」という点に、「好き」や「ファン」との違いを認める記述が多く見られます。手持ちの広辞苑にはありませんが、いずれ掲載されるようになるのでしょうか。
著者インタビュー動画
河出書房新社によるインタビューです。8年間推している俳優さんがいらっしゃることから「身近で、よく書けるのではないかと思った」とのこと。「推しを推すという行為は、色んな人に知れ渡っている反面、まだ軽いものに捉えられがちだなと思うことが多い」とも述べています。
書籍データ
題名:『推し、燃ゆ』
著者:宇佐見りん
版元: 河出書房新社
発行日:2020年9月30日(単行本)
サイズ:四六判
頁:128頁
定価:1400円+税(単行本)