米田夕歌里さん『トロンプルイユの星』
2010年のすばる文学賞受賞作。ひょんなことから手に取り、一気呵成に読んでしまいました。いやー、飽きさせないですね。
すごいです。
トロンプルイユって?
私は読み終えてから、「トロンプルイユってなんぞや?」と調べたわけですが…。簡単にまとめると、
トロンプルイユ…「騙し絵」。人の目の錯覚を利用したもの。
シュルレアリスムや、アメリカにおけるスーパーリアリズムの作品に見られる。元はフランス語。
なんだそうです。なるほどこちらの画像見たことありますね。
美術の教科書でもお馴染み「ルビンの壺」(デンマークの心理学者エドガー・ルビン考案)です。
何の絵に見えましたか?私は昔から「壺」が真っ先に浮かびます。
その他、
壁に階段があるけれど実際には登れなかった…なぜなら絵だから…
このようなアートもトロンプルイユです。
この小説ではこちらの意味合いで使われているのではないかと思います。
作者 米田夕歌里さん
早稲田大学第一文学部ご卒業で、在学中から小説を執筆していたとか。『トロンプルイユの星』ですばる文学賞を受賞しましたが、その前作は最終候補に残りながらも受賞を逃したそうで、その悔しさをバネにこの作品を書き上げたのだそうです。2度目の挑戦だったということでしょうか。
選考委員の高橋源一郎さんが米田さんとの対談で、米田さんが受賞を逃した時の様子を
選考会が終わったあとの食事会でもみんなとても残念がって、
まるで幼稚園の運動会で自分の子どもが転んだみたいに悲しんでいた(笑)
と表現しているのですが、その事実も高橋源一郎さんのこの表現にも、私はとても感動しました。
ちなみに、その対談はこちらです▽
また、米田さんは「音を聞くと形や手ざわりが生々しく感じられる」「(音が)雪みたいに降ってくる」という知覚を持っているそうです。これは一つの刺激によって他の感覚も同時に生ずる、「共感覚」という現象の一つだそう。高校の吹奏楽部で音を形に見立てて伝えたら「?」という反応をされ、そこで初めて誰もが持ち合わせる感覚ではないことに気づいたのだとか。『トロンプルイユの星』ではこのトピックはタブーにしたそうですが。
表紙の絵 多田玲子さん
「純文学賞にしてはポップな表紙!」というのが初めて手にした時の感想でした。手元に置いて本を開く度に「こんな綺麗に装丁してもらえたら嬉しいだろうなぁ」と思ったり、小説のとある場面の情景とこの表紙がシンクロしたりといったことが起こりました。それで気になって調べてみたら、表紙を担当した多田玲子さんは「独特の色使いとマーカー使いで絵と漫画とお話を描きます。」「多数の装丁、雑誌、アルバムジャケット、ファッションブランド等の仕事を国内外問わず手がけています。」(公式ページより)とあり、何とドラムも叩くそう。米田さんと音について、とか音楽について、とかお話したら楽しそう、と思いました。